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2021年02月01日

テスラから学ぶ「新時代のマーケティング戦略」
~SNS、リファラル、デ・マーケティング、デジタル購買~

テスラのマーケティング戦略

テスラから学ぶ
「新時代のマーケティング戦略」

テスラは、アメリカのシリコンバレーを拠点に二次電池式自動車と電気自動車、ソーラーパネルや蓄電池などを自社で開発・製造、販売代理店を使わず販売までを行う自動車ブランドです。

2003年に創業してから、約20年足らずで日本の自動車メーカー上場9社の時価総額合計を抜き、世界で最も人気のある自動車ブランドの1つとなりました(2021年時点)。しかし、皆さん、ご存知でしたか?世界最高峰の自動車ブランドとして地位を確立したテスラには、マーケティングチームやマーケティング責任者(CMO)は存在しません。さらに、テスラの広告予算は「ゼロ」です。

では、テスラはどのようにして成長し、0ドルの広告予算で40倍以上のROIを生みだしたのでしょうか?今回は、現在大きな飛躍を遂げているテスラのマーケティング戦略から、マーケターが学ぶことが出来る教訓をご紹介します。

 

テスラのブランディング戦略の「核」とは?

テスラのマーケティング戦略
< Tesla >

テスラが実践するブランディング戦略を分析すると、優れた「カスタマーエクスペリエンス / 顧客体験」を提供することを最も大切にしていることがわかります。

その中でも象徴的なものの一つが、有料広告に依存せず、優れた「紹介プログラム」を作ることで、口コミマーケティングを活用している点です。また、CEOであるイーロン・マスクがソーシャルメディア(SNS)を積極的に活用し、ユーモアのある情報やビジネスアイデアを発信することでメディアの露出機会を創出し、個別ユーザーのフィードバックを製品に反映するなど、素早く絶え間のない顧客体験の改善を行っています。

この「顧客体験」を第一に据えていることが、テスラの世界的なブランディングを強固なものにしている重要なポイントの1つでしょう。では、実際に学ぶことができるテスラのマーケティング戦略をご紹介します。

check 紹介プログラム – リファラルマーケティング

マーケティングにおける紹介プログラムの構築は、一般的に「リファラルマーケティング」とも呼ばれており、WebやSNSの進化により口コミの拡散が起こりやすくなったことから、昨今ますます活発的に使用されるマーケティング手法です。口コミマーケティングは古くから存在しますが、自動車業界のような大規模な市場で活用することは前例のないことでした。

Nielsenが世界60か国3万件を対象に行った調査「GLOBAL TRUST IN ADVERTISING」によると、回答者の10人に8人以上の83%が「友人や家族のおすすめを信頼する」と回答しました。また、回答者の3分の2の66%が「オンラインで投稿された消費者の意見を信頼している」と回答しています。このような結果からもわかるように、多くの人は「広告」ではなく、家族や知人友人からの「紹介」を信頼する傾向があり、テスラはこの時代において口コミがブランディングやマーケティングにおいて有効な方法と理解した上で、戦略的に機能させています。

例えば、2015年10月末までに実施された「紹介プログラム」では、紹介者がテスラの自動車を紹介し、購入につながると、紹介者と新規顧客ともに1000ドルが還元されました。これは顧客がテスラ製品の値引きを受ける唯一の方法として効果的に作用し、40倍のROIを生み出すことに成功しました。

YouTuberのビョルン・ニーランド氏はこのプログラムを利用して、10人にテスラ自動車を紹介し10,000ドルを獲得したことに加えて、特別に10,000ドルのボーナス、さらには「Founder’s Edition Tesla Model X」を手に入れました。また、別のYouTuber、Ben Sullins氏は自らの動画チャンネルで視聴者にテスラを紹介し、テスラに1200万ドル以上の売上をもたらしました。その報酬として、Sullins氏は2台の「テスラロードスター」を手に入れています。


<YouTube:「tesla+refferal」検索結果

YouTubeをはじめとしたSNS上には、テスラの紹介プログラムのメリットを紹介する投稿が溢れています。テスラの紹介プログラムは口コミを生み出し続け、注目を集めることに成功しています。

check 有料広告に頼らない

現代は街中だけでなく、インターネット上やSNSにも広告が溢れています。広告は時として迷惑なものとして認識されることも多く、嫌っている消費者も多いのが現状です。ただ、企業側からするとユーザーとのタッチポイントとも考えられる広告は切っても切り離せない「必需品・必要施策」でもあります。自動車業界も例外ではなく(むしろ一つの象徴ともいえるかもしれませんが)毎年数10億ドル以上をマーケティング予算として確保しており、広告・宣伝に費やされています。

しかし、テスラが費やす広告費用は「0ドル」です。

ここで重要なのが、マーケティング戦略において「広告費用がいくらか」ということではなく、「人々の心を惹きつける効果的な施策」でなくてはならないということです。テスラのブランディング戦略、マーケティング戦術からは、よりユーザーのロイヤリティを高めるため「顧客体験の価値向上を図るとともに、自社のブランディングを形成すること」がわかりやすい形で示されているといえます。

顧客をファンに変える「顧客体験の創造」に徹底的に焦点を合わせた戦略を立て、顧客のロイヤリティを高めることで、購買が伝播していく口コミマーケティングを実現させています。

check SNSの影響力を活用する

テスラはCEOであるイーロンマスクの影響力なしには語ることはできません。多くのCEOは、SNS・ソーシャルメディアに出ることを躊躇してしまう方も多くいらっしゃいます。会社の顔である以上、投稿内容には細心の注意を払わなければならず、一度でも間違った投稿をすれば「ブランドの評判」をひどく傷つけたり、訴訟を招く事態となってしまう場合もあります。

イーロン・マスクのSNS・ソーシャルメディアの影響力は、マーケティング投資以上にテスラの成功・成長に貢献しており、彼のTwitterでのつぶやきは「30秒の有料広告より遥かに強い拡散力を持っている」と言われるほどです。

現在、TeslaのTwitterアカウントのフォロワーが720万人、日本を代表する自動車会社Toyota USAのフォロワーは81.6万人。イーロン・マスク氏のTwitterには4330万人のフォロワーが存在しています。さらに驚くことに、2020年8月初旬には3780万人だったフォロワー数は、たった6か月で550万人のフォロワーを新たに獲得しており、世界中が彼の言動に注目しているといえるでしょう。

彼はほぼ毎日のようにフォロワーと交流し、通勤途中に新しいビジネスのアイデアをツイートし、ロケットの打ち上げを生中継をしたりと様々なツイートを行います。他のCEOが企業の最新情報や最新の製品情報を共有するためにソーシャルメディアを使うのとは異なり、彼は自分の思ったことや感じたことを率直に発信するためにSNSを使用しています。

イーロンマスクは2018年4月エイプリルフールにあわせて、「テスラが破産したことを報告するのは悲しいことです。破産したのです。」とツイートしました。このツイートによって株価は約8%下落し、過去1年間の最安値をつけることとなりました。

良くも悪くも企業のリーダーシップでもあるCEOのパーソナリティは、時として有料広告を上回る絶大な効果を発揮するでしょう。

check 車両の独自性と希少性

創業当時テスラは市場での地位を確立するために、独自のアプローチを取りました。

大量生産と販売が可能な比較的手頃な価格帯の自動車を作る代わりに、他社との徹底的な差別化を図り「高品質で革新的な高機能電気スポーツカー」を市場に投入するという選択でした。最初に販売された各車に多額の資金を投じる必要がありましたが、最終的には多くの研究開発を行い、より安価なしかし革新的な電気自動車を製造することに繋がったのです。

また、当時テスラの車両試乗のためには高額なデポジットを用意する必要がありました。頭金を用意しても欲しい車がすぐに見られないことや、注文ができても届くまでに数ヶ月~数年を要する点も、ユーザーや消費者の期待を高めるマーケティング施策と考えることができます。

このテスラ特有の製品の需給バランスに加えて現在、テスラの製品は、限定的な生産量(完全受注生産)から、需要が供給においついておらず、ジレンマがついてまわります。しかし、これが効果的に作用し、人々を惹きつける大きな役割を果たしています。

意図的に供給を抑制することで、高い品質を提供するとともに、希少価値を生み出し、顧客満足を高めるというデ・マーケティング(de・marketing)を見事に成功させているのです。

check  一貫した企業ビジョン・ミッション

どのような企業・ブランドにおいても「強力なミッション、ビジョンステートメント」は大切です。そのなかで、この時代においてテスラほど強力なミッション、ビジョンステートメントを持つ企業は数多くありません。

テスラのミッションは「世界の持続可能なエネルギーへの移行を加速させること」。ビジョンは「世界の電気自動車への移行を推進することで、21世紀で最も魅力的な自動車会社を創造する」というものです。

ミッションステートメントは、事業達成のために何をすべきかなど、テスラの戦略的意思決定の指針となり、ビジョンステートメントは、テスラの組織成長の方向性を示すものとなります。企業が一貫したミッション・ビジョンステートメントを掲げ、顧客との接点において明確に語ることで、単に製品を売るだけでなくそのさきの世界観・未来まで見据えていることを顧客に伝えることが可能となります。メッセージを顧客に伝えることで顧客のロイヤリティを高め、ブランドを支持する顧客層を獲得することへと繋がるでしょう。

テスラが組織として機能するためには、ミッション・ビジョンを明確化することで価値の共有が行われ、様々なアイデアや知性を一定の方向性をもたせることができるのです。

check 顧客に対して誠実でいる – 情報の透明性

課題を抱えていたり、顧客の失望を招く可能性が要素がある場合、それを隠すのではなく、顧客に対して正直に「透明性」を保つ必要があります。

「Tesla Model 3」を予約注文した多くの顧客は、製造上の問題から納期が遅れたことにひどく落胆しました。その際、テスラは問題を隠すのではなく、その課題について率直に話しました。Axiosのインタビューで「過去1年のModel3の構築は生産地獄だ」、「テスラが死に直面していた」「2008年は破産寸前だった」と正直に述べています。「問題の裏でどのようなことが起こっているのか」その理由が理解できれば、顧客は問題に対して納得することができるでしょう。

顧客に対して誠実でいるために、情報の透明性を保つことは企業のデジタルマーケティングにおいても非常に重要なものといえます。

check オンライン上の購買・マーケティングにシフトする

オンラインでの購買が当たり前になった現代の消費者に対して、企業の購買・マーケティングをオンラインにシフトすることが、競合他社に負けないブランドを作る上で極めて重要です。

テスラのウェブサイトは顧客に販売を促すのではなく、サイトに訪れた顧客が自分自身で意思決定をするための情報を余さず掲載しています。また、テスラは多数のプレスリリースやSNS・ソーシャルメディア上での何百万人ものフォロワーによって、オンラインでの存在感を際立たせています。

さらに、購買・営業の現場においても、テスラは「販売代理店」に頼らないオンライン販売の確立を推進しており、「人対人の販売」からの離脱を進めています。また、2019年に公開されたテスラチームブログ内でも、「全ての販売をオンラインにシフトすることを目指し、長期的なコスト削減と組み合わせることで、全ての車両の価格を6%下げる」と公表しています。

決して押し付けることをせず、常に顧客にとって最適な選択肢を提供する環境を整えています。

check 本業ビジネス以外のプレゼンスを表明する

競合他社と差別化するためには、本業となるビジネス提供だけではなく、世界中の他の問題・関心事への具体的な関与や立ち位置を表明することが企業ブランドに好影響をもたらすことが増えています。社会性のあるイベントへの参加や、ビジョンやミッションといった大義のために行動することは、人々にブランドを認知してもらうきっかけにもなります。それは、長期的なブランディングを考えた場合に、人々の間にポジティブな認知を生み出し、将来の売上へと結びつくでしょう。

check 競争を受け入れる

テスラが保有している全ての特許オープンソース化したことをご存知ですか?テスラが掲げるのミッションは「世界の持続可能なエネルギーへの移行を加速させること」。その指名を実現するためならば、他社が自社のコンセプトを使用することも構わない、電気自動車技術の進歩のためにむしろ望んでノウハウを共有する、という姿勢です。競争を受け入れるテスラの企業としての姿勢を示しています。
それは、競合他社の成功を心配するのではなく、自社が掲げる社会的な使命の実現を第一にしながら、ビジネス・マーケティングに取り組むという像を教えてくれます。

 

さいごに

世界の注目を集めるテスラは、従来の企業のように莫大な広告に予算を割いてマーケティングを実践する手法とは大きく異なります。リーダーであるイーロン・マスク自らがSNS上でユーザーと直接繋がることで、企業としてのミッションやビジョンを伝え、結果的にロイヤリティの高いユーザーを生み出すことに成功しています。こうした「優れた顧客体験」を重視したデジタルマーケティングにおいては自社SNSマネジメントが重要となります。

Twitter・Facebook・YouTube・LinkedInなど、海外市場に向けたSNSマーケティングにご興味がありましたら、お気軽にご相談ください!

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吉田 真帆

吉田 真帆 マーケティング部 プランナー

コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。