GLOBAL MARKETING INSIGHT

連載対談
2018.4.23

海外での成功は、ソーシャルメディアの活用と徹底したリサーチが必須です。

対談者

株式会社Fun Japan Communications
代表取締役社長
藤井 大輔 様

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4つの異業種企業が参画して立ち上げた「FJC」が、
アジアで“情報流”を巻き起こすまでの顛末

「Fun! Japan」の前身は「日本通運」の社内新規事業

山岸 - 今回は、「JTB」、「日本通運」、「三越伊勢丹ホールディングス」の3社が2016年10月に設立した合弁会社「Fun Japan Communications」(以降、「FJC」)の代表・藤井さんに、同社が始めたアジア向けデジタルマーケティング事業についてお話を伺っていきます。立ち上げと同時に「株式会社 JAL」が業務提携したことで異業種の最大手4社が結集したと話題になりましたが、設立にいたるまでの経緯はどういったものだったのでしょうか。

藤井 - 「FJC」の設立は2016年ですが、その3年ほど前から「日本通運」がASEANへ進出する日本企業を支援することを目的にスタートした社内新規事業がありまして、それにインバウンドの要素も加えて、日本の企業・自治体のお役に立てる包括的なサービスができる事業を4社参画で進めていこうということで設立されました。

山岸 - 事業の中核を担っているのは、アジアで展開するソーシャルサイト「Fun! Japan」ですよね。

藤井 - はい。事業自体は、2012年頃「日本通運」の石田和也さんがASEANの状況を調べていく中で、「ASEANには日本に関心が高い人や日本に行きたい人がとても多く、現地で日本製の家電やバイクなどを買う人も非常に多い」と感じ、さらにSNSの普及率も日本の倍以上だったことなどから、「現地で日本好きのコミュニティを作ることができれば、そこで商品が売れるかどうかのリサーチをしたり、情報の拡散をしたりすることができるだけでなく、実際に商品を購入してもらうこともできるのではないか」という仮説を立てたことに端を発しています。

山岸 - ASEAN諸国ではスマートフォンを使ったSNSでのコミュニケーションが主流ですから、口コミで情報が拡散されて購買につながる可能性が高い。そこに目をつけたわけですね。

人流・物流・商流・情報流に関するサービスをトータルで提供

山岸 - 藤井さん自身のご経歴を少しお聞かせいただけますか。なぜ「FJC」の代表をされることになったのでしょうか。

藤井 - 私はもともと「JTB」の出身で、熊本支店で一般企業の旅行営業をしていました。その後、九州の本社での経営企画を経て、東京にあるグループ本社の経営企画をやらせていただく中で、「JTB」として2020年までの長期計画を策定するプロジェクトの事務局をやらせていただきました。

山岸 - そうした経緯がおありなんですね。

藤井 - はい。積極的にグローバルに投資し、グローバル展開を加速していく方針が決まり、特に強みを発揮しやすいインバウンドに力を入れていこうと専門部署の設立にも携わりました。しかしながら、インバウンドの領域は多岐にわたり、1社でインバウンドの取り組みすべてをやるのは難しいなと感じました。と言うのも、「JTB」は、旅行商品を作って人の流れ、つまり“人流”を作ることは得意領域ですが、その情報を伝える“情報流”の手段が乏しく、モノを買ってもらうという面での“商流”のリソースも足りない、また荷物を運んだり現地に何かを送るといった“物流”の仕組みもありません。

山岸 - なるほど。

藤井 - それが「FJC」では、“商流”を作ることに長けた「三越伊勢丹ホールディングス」、“物流”は「日本通運」、さらに“人流”は「JTB」とともに「JAL」と連携しています。そして“情報流”をどうするかとなった時に、アジアでの「Fun! Japan」の展開につながって来るわけです。

山岸 - なるほど、そういう流れだったんですね。

藤井 - 私が代表としてアサインされた理由は、インバウンド関係の職務に従事していたことと、そうした流れをもともと実現したいと考えていたからかなと自分では思っています。

3つの強みを掛け合わせてコンバージョンを実現

藤井 - 「FJC」の強みは3つありまして、1つ目はやはり、アジアの展開国において非常に大きなコミュニティを作り上げていることですね。

山岸 - 「Fun! Japan」のFacebookページのファン数は、全体でどのくらいですか。

藤井 - 2018年3月現在で438万です。

山岸 - 「日本通運」さんが立ち上げた当時は当然、ゼロだったわけですよね。東南アジアで、しかも日本の企業で400万を超えているって、どうやって集めたんですか? とても興味があります!

藤井 - 立ち上げ当時のメンバーに聞くと、やはり最初のうちはファンもなかなか増えなかったそうですが、特別なことをやったわけではないそうです。もちろんデジタルマーケティングの知見・ノウハウはありましたが、地道に各国のスタッフが現地の目線で記事を書きながら、コメントにもしっかりと返していくというのをルール化して、段々とエンゲージメントを深めていったそうです。そうすることでグッとファンをのばすことができたわけです。

山岸 - そうした地道な努力が、実を結んできているということなんですね。現地にこれほどの規模の“日本に関心の高い人たちのコミュニティ”を持っている企業はほかにないと思いますし、やはりそれが「FJC」さんの一番の強みでしょうか。

藤井 - そうですね。そして2つ目の強みは、出資企業を中心とした約20社におよぶアライアンス体制でしょう。3つ目の強みは、スタッフの専門性の高さです。それはデジタルマーケティングやソーシャルメディアに関する専門的な知識があるということに加え、社員の約3割が「Fun! Japan」のコミュニティを形成している対象国の出身者であるということ。主なクライアントは日本の企業や自治体の皆様で、最近は「色んなプロモーションをしたけれど、なかなか成果に結びつかない」という相談が多く、購買につながるためのコンバージョンを求められることがかなり増えていますので、これら3つの強みを掛け合わせてコンバージョンを実現させていくことが私たちの使命だと考えています。

さらにコンバージョンを高めるコミュニティ作り

山岸 - Facebookを運営したいという企業は多いと思うのですが、1つの国のFacebookを運営するのには何人の人的リソースが必要なのでしょうか。

藤井 - 「Fun! Japan」の場合は、コンテンツを活性化させる部隊と営業部隊がいまして。活性化させる方はまず日本人の編集長が1人いて、そのチームに各国の担当が1人ずついて、それを支えるアルバイトやライターが数名います。彼女・彼らが、その国についての観光や文化にまつわる記事を編集したり、お客様の記事を書いたりしています。また、各国現地にいるライター約20名とも連携していますね。あとは台湾以外の現地には社員が1人ずつ駐在していて、やはり翻訳をしたり記事を書いたりイベントを実施したりしています。

山岸 - なるほど、そういった体制なんですね。

藤井 - 最終的には各国の担当者が編集をして、今のところ1日に3~5記事アップしています。

山岸 - 1日に3~5記事というと、けっこう多いですね。

藤井 - そうですね、この発信する記事の量と各国に暮らしている人たちの目線を大切にしています。

山岸 - 編集長は1人でトータル的なクオリティを見ながら記事をアップしているんですね。今後もこの体制で続けていく予定なのでしょうか。

藤井 - この1年で各国のスタッフが成長していますので、いずれは違った体制に移行するかもしれません。国が違うと価値観も違いますから、その国ではウケる内容でも、日本人にとっては何が面白いのかさっぱり分からないということもあるんですよね。ですから編集長はひとつひとつの記事のチェックをするというよりも、テーマの管理をしています。また今は「日本好き」というひとつのカテゴリーでやっていますけれども、もう1つ下の層のコミュニティを作っていかないとコンバージョンが高まっていかないなと感じておりますので、来期は「日本好きかつ日本の旅行好き」、「日本好きかつ日本の食好き」、「日本好きかつ日本のライフスタイル好き」、「日本好きかつ日本のテクノロジー好き」といったカテゴリー別のコミュニティを作り、そのコミュニティごとにキャンペーンを張ったりして、圧倒的なコンバージョン率の実現に挑戦します。

山岸 - その方が企業側には魅力ですよね。自分がその業種に当てはまっていれば、ただ単に日本好きな人よりも強力にアプローチできますから。

Facebookのファン数438万、会員数約75万!

山岸 - 現在「Fun! Japan」のFacebookページのファン数は438万とのことですが、サイトの会員はどのくらいいるんでしょうか。

藤井 - 75万人ですね。

山岸 - もう80万人近いんですね。

藤井 - 「FJC」を設立した当初、つまり私が代表に就任した1年4カ月前には33万人くらいでしたから、最近になって急激に増えている印象ですね。まずFacebookのファンを拡大して、そこからサイトの会員になってもらうという流れです。また会員になると、リサーチやキャンペーンなどに参加することで会員だけに付与される“Fun! Japanポイント”がありまして。

山岸 - 協力するともらえるポイントなんですね。

藤井 - はい。アンケートに答えるとポイントが貰えて、たくさんポイントが貯まると無料で日本に招待される「ビジットジャパンキャンペーン」に応募できたり、さまざまな特典があるんですよ。ちなみに、「ビジットジャパンキャンペーン」は「FJC」の行ってほしい場所へ行ってもらい、情報を拡散してもらうという相乗効果もあるんですよ。

山岸 - 毎日サイトを訪れればポイントがもらえるっていいですね、つい行きたくなります(笑)。大手家電量販店とかでもやっていますよね。ちなみに今、会員が一番多い国はどこですか?

藤井 - 会員数はやはりサイトとFacebookを最初に始めたインドネシアが一番多くて、タイ、マレーシア、台湾、香港と続きます。始めた順に会員数が多く、伸び率としてはタイ・台湾が高いですね。夏くらいからベトナムも始めます。

「アジアでの困りごとはまずFJCに相談」

山岸 - 「Fun! Japan」ではサイトの会員を対象にアンケートやリサーチをすると話されていましたが、それ以外にクライアント企業に対してどんなサービスを提供しているのでしょうか。

藤井 - ボリュームとしてはやはりリサーチ・記事配信が多いですね。リサーチの結果を分析して「対象国では何の商品をどの様にPRすると購買につながるか」というご提案をしたり、記事配信でその商品を効果的に紹介したりすることもあります。また動画を制作して配信したりすることも。

山岸 - ぜひ弊社も連携させていただきたいですね。私たちはメディアを持っていませんので、色んなお客様から「海外で情報発信したい」と言われたときに、メディアを持った会社さんと一緒に進めることができれば付加価値が高まります。

藤井 - そうですね。弊社の現地スタッフが定期的に開いているギャザリングパーティー(参加者が食べ物を持ち寄るスタイルの会食)でサンプリングをして、消費者のリアルな声を拾うことも行っています。

山岸 - 座談会的なものですか?

藤井 - そうですね。ほかにも現地の旅行博や物産展などに集客してほしいというケースなら、「Fun! Japan」の会員に案内して動員に繋げることもできます。

山岸 - イメージとしては、「アジアで困っていることがあったらまずFJCに相談しよう」という感じですね!

藤井 - そうですね。最近では現地の店舗と越境ECを使った販売トライアルをしたり、実際にお客様の地域へ来てもらい、交流会を実施したりすることもありますよ。それから、我々が申し上げているのは、1度は買ってもらったり来てもらったりしても、それで終わってしまわないよう、次につなげるための仕掛けを継続して行う事です。実際に「Fun! Japan」のようなコミュニティを持ちたいという自治体様がいれば、Facebookを立ち上げて、一定期間弊社で運用したりすることもできますし。出口としては、「Fun! Japanのファンかつ沖縄のファンである」という様に「Fun! Japan」のファンを共有していって、将来的に地域の人たちと直接つながることができるコミュニティを作っていくということも可能だと思っています。

山岸 - なるほど、面白いですね。現在はファンがファンを呼ぶ良い循環が出来上がっているように感じます。

コミュニティ作りは最初に資金投入を

藤井 - 自治体様でも企業様でも、Facebookでファン作りをしようとするときに「オーガニック(自然流入)で一定程度のファンを集めることができたら、本格的に投資しよう」と考えるケースが多いのですが、発想が逆で、最初に投資をしてグッとファンを獲得してからコンテンツを充実させて自然増につなげるのが正しいと我々は考えています。

山岸 - 分かります、自然流入だけでは、相当魅力的なコンテンツを作り続けない限りたくさんのファンを獲得するのは難しいですよね。Facebookは友達が「いいね!」をしたのが分かりますから、拡散した情報に友達が付いて来てくれたりすることはありますが……。
でも「Fun! Japan」くらいのアセットができていれば、後はどう料理をしようかというところですよね。けっこう、自治体からの相談は多いですか?

藤井 - 売上額でいうと自治体様と企業様が半々くらいですね。

山岸 - 自治体が半分もあるんですね。

藤井 - はい、私も当初は企業様からの依頼が圧倒的に多くなると思っていたのですが。なぜ自治体が多いのかというと、やはり自治体がインバウンドや海外進出について積極的に取り組み始めているということと、もう1つは「JTB」が全国の自治体と密な接点を持っているために、色んな形で「FJC」の事業のことを伝えてくれて、それに興味を持たれた自治体からお問い合わせがあるのだと思います。

自治体は「ソーシャルメディアは重要」と分かっているが……

山岸 - ソーシャルメディアの重要性は、自治体の皆さんも理解されているのでしょうか。

藤井 - 国としてデジタル化に力を入れ始めていますし、県などの自治体様もかなり意識は高くなってきていますね。最近お仕事をいただいた九州の自治体様なども、Facebookのファンを増やすことに注力されていました。でもけっこう自治体によっても意識の高さはバラバラなんです。

山岸 - そうなんですね。ある自治体の人に聞いた話ですが、SNSなどを始めたくても担当する人がいなくて困っていると。ですから自治体のFacebookの運営の支援などは大事ですよね。担当してくれる人が見つかったとしても、多言語展開をするとか、海外向けに運営できる人はなかなかいないと思いますし。

藤井 - それは自治体に限らずよく聞く話ですね。現状、弊社がサポートして、お客様と一緒にやりながらノウハウを蓄積していき、担当者様が慣れたところでサポートを薄くしていったりしています。今後は、場合によっては半年間くらい弊社内で一緒に運営をしてみたりといったこともできるかもしれません。

山岸 - それは心強いですね。ちなみに、自治体同士の協力や連携はあるのでしょうか。

藤井 - 例えば、各地の観光推進機構様などはエリア全体で情報を発信していこうと音戸を取られていますし、連携の動きはあります。実際、地域でバラバラに情報発信をしても、例えばタイの人から見れば、九州は分かっても、どの県かというところまでは区別がつきにくいんですよね。

山岸 - 確かに、海外から見るとそうしたエリアごとの差は分かりにくいでしょうね。

藤井 - せめて九州エリアとか、東北エリアとか、大きなエリアで情報を集約して発信していけると良いと思いますね。

事前のリサーチを徹底すれば、高価なグラスだって売れる

山岸 - これから海外にチャレンジする日本企業に向けて、月並みですが、一歩を踏み出したくなるようなお話をお願いします!

藤井 - それでは、「FJC」もまだ設立から1年4カ月しか経っていませんが、徐々に成功事例も出てきていますので、越境ECを運営されている、ある商社様の事例をご紹介したいと思います。

山岸 - 日本の伝統品などを扱うオンラインセレクトショップを運営されている会社ですよね。

藤井 - はい。越境ECサイトを運営されているのですが、どこかの国でヒット商品を生み出したいということで「FJC」にご相談をいただいたんです。それで「台湾でヒット商品を作りましょう」ということになり、まず、台湾の人たちにどの商品が好まれるかを掴むために、20商品くらい用意して、サイト上で人気投票をしてみたんです。

山岸 - 事前リサーチですね。

藤井 - そうして人気が高かった3商品を徹底的にプロモーションしたところ、切子で富士山を表現した「富士山ロックグラス」がヒット商品になりました。単なる商品広告ではなく、商品のこだわり・日本の技術などを伝えるための記事を「Fun! Japan」上に出すことでファン・会員の興味をひき、記事を配信する内に150個ほどあった在庫がすべて売れました。当時1種類だったグラスも、今では、季節ごとの「富士山ロックグラス」を販売しているのですが、発売を開始して1週間くらいでほとんど売れてしまうほどの人気商品になりました。先日、台湾の百貨店でのリアルイベントで100個くらい出品しましたら、すぐに完売してしまい、イベント後半は在庫がない状態になりまして。

山岸 - サイト上でイベントの告知を見て、目的買いで訪れた人も多かったそうですね。

藤井 - はい。このグラスのように、事前のリサーチを行って、顧客ターゲットと売れそうな商品を特定し、その顧客の心をくすぐる情報配信をすれば、ヒット商品を作ることができるわけです。その後、リピーターや推奨者を増やすには、商品を買った人やイベントに来た人、サイトを訪れた人と継続的な接点を持ち続け、その人達にとって価値のある情報や体験を提供する必要があります。

クライアントとユーザーの間をつなぐ架け橋に

藤井 - それから、こんな例も。マレーシアの人たちはハラールに気を使っているイメージがありますが、実はマレーシアでもマレー系の人もいれば華僑系の人もいるので、価格帯によっては豚肉も買ってもらえたりするんです。

山岸 - 思い込みと言うか、イメージだけで進めるとダメなことって多々ありますよね。

藤井 - はい。ですからネット上のリサーチだけでなく、座談会などでリアルな意見を聞き出すことも大切です。

山岸 - 立場が違えば感じ方も違いますから、想像するには限界があるんですよね。ファンがたくさんいると色んな手段でリサーチできて良いですね。ちなみに「富士山ロックグラス」、けっこう高価ですよね。

藤井 - 1個6,000円以上しますが、売れていますね。やはり、正しいお客様に最適な情報を配信する事って本当に大事なんだと改めて思います。今後は、ファン・会員のカテゴリー化を進めることで、現状の常識よりも圧倒的に高いコンバージョン率を実現できると考えています。それはクライアントだけでなく、ユーザーにとっても非常に価値の高いことだと思いますので。そして私たちがクライアントとユーザーの間をつなぐ架け橋になれれば。「Fun! Japan」を見ると何かが動く……そんな存在になりたいですね。

山岸 - 藤井さんのその夢は、個人的にはすでに実現している気がします(笑)。本日は興味深いお話をたくさんお聞かせいただき、ありがとうございました!