GLOBAL MARKETING INSIGHT

CEO対談
2018.9.19

日本を安全・安心に旅するための情報が提供できるようになったとき、
「MATCHA」は“なくてはならないメディア”になれると思っています。

対談者

株式会社MATCHA
代表取締役社長
青木 優 様

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日本全国に散らばる魅力を、「MATCHA」を通じて世界に届けることが最大の使命。

「父の副業」と「学生時代の世界一周旅行」が起業のきっかけに

山岸 - 今回は、訪日外国人観光客向けのウェブメディア「MATCHA」を運営されている、「株式会社MATCHA」の青木社長にお話を伺っていきます。最初に、会社としての「MATCHA」を立ち上げるまでの経緯をお聞かせいただけますか。会社を作ることも日本の文化を世界に発信していくことも、何かのきっかけがないとやらないと思うのですが、私としてはそこが個人的にとても興味深くて。

青木 - そうですね……、起業したきっかけの根っこには、父親が会社に勤めながら副業として輸入業を営んでいたことがあるかもしれません。

山岸 - お父様はどんな副業を?

青木 - 毎年ルクセンブルクに行って、クッキーなんかを輸入していました。それで“海外と日本をつなぐ”ということに対して、子供の頃から漠然と面白さを感じていたのだと思います。その後、明治大学の国際日本学部に入り、そこで日本文化を学問として学びました。その学部は一言で言えば「日本文化を世界に発信できる人を増やそう」というのがコンセプトで、具体的には日本のマンガやアニメーション、ファッションなどについて学びました。学部の一期生として「第2言語習得理論」という講義を受講した際に、教授が「日本の文化は、一部は世界ですごくウケているけれど、日本人はそれを上手く生かして商売できていない」と話していました。それを聞いて、「日本は、まだまだ海外でビジネスチャンスがあるんだ」と感じ、学生時代に世界一周に行きました。

山岸 - 真実を現場に確認しに行ったんですね(笑)。どんな国に行かれたんですか?

青木 - 最初にアジアですね、タイ、ネパール、インドに行って。続いて、エジプト、イスラエル、ヨルダン。中東ですね。その後、トルコ、ブルガリア、ギリシャ、イタリア、フランス、ルクセンブルク、ドイツ、オランダ、ロンドン(イギリス)、モロッコ、スペイン。それで最後はアメリカに渡り、ニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコと回って、7カ月かけて日本に帰ってきました。合計18カ国ですね。

山岸 - かなり回りましたね!

青木 - はい、1カ国につき1週間から2週間くらい滞在して。それで、色んな国の人や、実際に世界で商売をされている日本人に会っていく中で、「やっぱり日本文化にはビジネスチャンスがある」と確信しました。

山岸 - 実際に世界を見て、日本の文化は世界に向けて発信するポテンシャルがあると感じた。

青木 - はい、「日本はスゴイな」と。例えば海外で日本食屋さんに入っても、「コミック&ゲームフェスティバル」というイタリアのイベントに行っても、日本文化はすごく受け入れられている。でも同時に、教授が話していた通り、日本人はそこで商売できていないと感じて。そんなことがあって、「この領域で勝負したい」と思ったのが起業の最大のきっかけになりました。

ビジネスチャンスは、日本の魅力を世界に発信することにある

山岸 - 会社をやりたいという思いは昔からあったのですか?

青木 - はい、それはありました。大学2年生の時にインターンでネットショップの店長をしたのですが、そこでの影響が大きいですね。店舗の運営を任されて、「月に100万円売る」というような内容で、自分の中の商売感覚というか、何をすれば利益が出るとか、自分の行動が売上に大きく影響することが面白いなって。

山岸 - 私はアメリカに10年住んでいたのですが、現地で暮らしたり、インフォキュービック・ジャパンで海外向け支援をしたりする中でも、日本のプロダクトや文化の中にはたくさん良いものがあるとずっと思ってきました。でも青木さんが話されているように、日本の企業ってうまく利益を生めていないところも多いんですよね。それに対して海外の企業って、日本のモノに目を付けて上手にビジネスをしているところが結構あるかなと。
せっかく日本独自のカルチャーがあるのだから、それらをうまく取り入れて海外で上手に売っていかないと、作り出している側の立場を活用して生まれるはずの利益もあるのにもったいないというか。日本の文化ってそれ自体は素晴らしくて、本来なら利益が落ちるところは日本の企業であるはずなのに、意外に周りにいる賢い人たちが利益を搾取していっちゃうところがあるのかなと思っています。

青木 - そうですね。世界一周をした後、改めて「日本をもっと知りたい」と思って、今度は日本各地を巡りました。
そこで日本人にすら知られていない魅力がたくさんあって、そういったものをもっと海外に出す必要性があるのではないか、日本のまだ知られていない魅力をもっとアピールするところにビジネスチャンスがあるに違いないと思って、2013年12月に会社を作りました。

良い企業さんから仕事をいただけているのは、ご縁と運のおかげ

山岸 - 御社の「MATCHA」という社名は、やっぱり抹茶からきているのですか?

青木 - 最初の社名は違ったのですが、メディアの名前を「MATCHA」にしてそれが広がってきたので、社名も「MATCHA」に統一しました。今から3年前(2015年)のことですね。24歳のときに会社を作ってからそろそろ5年になります。

山岸 - 最初はお1人でスタートしたのですか?

青木 - 登記などは1人でやって、でもTwitterなどを介してコアな人たちが集まってくれて、4人くらいで始めた感じですね。今は当時のメンバーはいないのですが、良いスタートだったと思います。

山岸 - 会社を始めるときってだいたいお金がないですから、良い人を高いお給料で雇うことができなかったりしますよね。

青木 - そうなんです。だから良い人たちが集まっても、その人たちの熱量を繋ぎとめることはなかなか難しくて……。

山岸 - それでも御社は、ことあるごとにというか、いつも良いタイミングで、星野リゾートさんなど大手の企業さまからのご依頼が舞い込んでいるように思います。

青木 - はい、それは本当にありがたいことだと思っています。

山岸 - この5年でいろんな様々なお客さまがいたかと思いますが、特に思い出に残っている仕事はありますか? 私自身は、アメリカで26歳の時に右も左も分からない状態で共同経営者と2人で会社を立ち上げて、初めてのお客様がNTT東日本さんでした。徹夜をして大変な思いをして納品したのが、今となっては良い思い出だったりするのですが。

青木 - 弊社は最初のクライアントは、東急ハンズさんです。その時は記事広告を作らせて頂いたのですが、「この情報は、本当にユーザーは求めているのか」といったことを深夜まで担当者さんとメールや電話で話し合ってブラッシュアップしていったり、時には怒られたりもして。最初に東急ハンズさんと仕事をさせていただいたからこそ、弊社が成長することができたと思っています。

「一緒に乗ったタクシーでプレゼンして、出資が決まりました」

山岸 - 「レオス・キャピタル・ワークス」の代表取締役社長・CIOである藤野 英人さんが、何かの記事の中で「どんな会社に投資されているか」というテーマで、青木さんのことを話されていました。どんなつながりがあるのだろうと思っていたのですが、藤野さんはどんな経緯で御社に出資されたのでしょうか。

青木 - 藤野さんとは、帯広でお会いしまして。藤野さんと「スノーピーク」の代表取締役社長の山井太さんがタクシーに乗ろうとしていたのですが、そこに一緒に乗れたら何かチャンスにつなげられる気がして、おふたりの後ろに付いて行ったんです(笑)。

山岸 - そう言えば記事にもそんなことが書かれていました(笑)。

青木 - 運良くタクシーに乗せていただけることになり、お願いをして会社のプレゼンをしたところ出資が決まったという。

山岸 - エレベーターピッチならぬ、まさかのタクシーピッチですか!

青木 - 到着するまで密室だから、逃げられないじゃないですか(笑)。

山岸 - 「タクシーの中」って、なかなかない話ですよね(笑)。

青木 - はい、すごく良いご縁でした。それが去年の3月でしたかね。

山岸 - その頃、出資先を探されていたのですか?

青木 - ぼんやりとは探していましたが、まさか藤野や山井さんから出資していただけるなんて、想像もしていなかったです。本当にご縁と運が良かったのだと思います。

「MATCHA」の記事は、読者が追体験したくなる内容が魅力

山岸 - 「MATCHA」というメディアの一番の特徴は何でしょうか。

青木 - 最大の特徴は繁体字・簡体字・英語・日本語など10言語に対応していることです。また記事については、国ごとに求められる情報やフェーズの違いを考慮して書いています。例えば、台湾からの旅行者は10人に1人がすでに2回以上の来日経験があって、いわゆる観光スポットを巡るのではなく、「自分だけの旅」を求める人が多い。そういった人に向けた情報と、メキシコから日本に初めて来た人が求める情報の内容は全然違います。

山岸 - そうですよね。

青木 - それから、例えばインドネシアの人たちは豚肉の記事は読まないとか、宗教的・歴史的なところを考慮しているのも特徴だと思っています。
そしてもう1つ、これはメディアとして基本的なことだと思いますが、しっかりと取材することを大切にして良い記事を作ることを心がけています。また、社内の約3割を占める外国籍のスタッフが、その国らしい視点に重きをおいて記事を作成しているのも特徴です。

山岸 - どんな切り口の記事が多いのでしょうか。

青木 - 読むことでユーザーの体験が良くなる記事ですね。日本の施設や店舗などでは受け入れ側が日本語しか話せない場合が多いので、記事を読むことでそこを訪れた時にユーザーの経験・体験の価値が上がればいいなと。端的に言えば、自分が追体験したいと思える内容の記事を追求しています。
ほかにも人気が高いのは、ストーリー性があって登場人物の人となりが見える記事。例えば、板橋区には「水平ノート」というピターっと平らに開くノートを作っている老舗の工場があるのですが、そこのおじいちゃん経営者の記事を台湾人のスタッフが書いたところ、とてもウケたんですね。その記事はストーリー性があって経営者の人柄が分かる上に、クラフトマンシップや手作り、文房具といったキーワードがフックになる台湾人に合わせたコンテンツの出し方ができていました。

山岸 - 少し前から言われている、“モノ”から“体験”への変化を感じられることはありますか?

青木 - はい、感じます。最近は、“体験”からさらに進んで、“習得”なんじゃないかと感じています。例えば「有田焼を2時間で体験します」というのではなくて、「1週間かけて有田焼を作れるようにします」というように。体験したことを血肉化していくことがこれからの旅行コンテンツには求められるのではないかと思います。
そう考えるようになったきっかけは、星野リゾート代表の星野佳路さんとニュージーランドのクイーンズタウンに行く機会があったのですが、そこは1カ月単位で長く滞在する人が多いそうです。なかでも、中国の富裕層やセレブが多いのですが、滞在中に何をしているかというと、スキーとかスノーボードとか、アクティビティをしている。そうした人たちに価値を提供するためには、より人生に深みが出るような、学びがあるようなもののほうが、これからは求められていくのではないかと思っています。

外国人スタッフとの関係は、“信頼するから信頼される”という構図

山岸 - 弊社は50人くらいいる社員のうち約半数が外国籍なのですが、そもそも社長の私が日本の会社で働いたことがないので、外国籍の人たちと働く環境には抵抗がないんです。御社のスタッフも約3割が外国籍ということで、日本の企業としてはかなり多い方だと思うのですが、特に外国人スタッフとのコミュニケーションや環境について気を付けていることはありますか?

青木 - 国籍が違うだけでもちろん人間としては対等ですから、国によって差を付けるようなことは絶対にしないようにしています。また同じ日本人ですら理解しきることは難しいので、常に「理解しよう」という努力をしています。そして、私たちが持ち合わせていない能力、例えば繁体字やタイ語の記事作りの際には、彼らの意見を尊重する。そこに厳格なエビデンスを求めるのではなくて、例えば「グミの記事を書きたい」と言われたら、「書こうよ」と言って、書いた後に結果を見るという感じですね。“信頼するから信頼される”という構図があると思っています。

山岸 - なるほど、その通りだと思います。

青木 - 分からないモノは分からないと認めて、分かる人に助けを求めるというか、依頼をするという形ですよね。

山岸 - 社内ではやはり、いろんな言語が飛び交う環境ですか?

青木 - はい、英語だけでなく色々と。

山岸 - 弊社も、英語を使う人は多いですけど、社内公用語を決めて英語にしよう、日本語にしようというようなルールは作っていません。伝えようという意識があれば、今はGoogle翻訳なんかもあるし、あまりそこで無理に英語を使えとか日本語を勉強しろというのは違うかなと思っています。

タイ、台湾、英語圏がメインターゲット。省庁からの指名も増えている

山岸 - 御社がこれから特にターゲットにしていきたい地域や国はありますか?

青木 - これは弊社が前から公言しているのですが、タイ、台湾、英語圏ですね。

山岸 - メディアとしての「MATCHA」は、タイ語には対応されていますよね。

青木 - はい、タイ人のスタッフが3人、台湾人が4人、英語圏出身のスタッフも3人いますので、この3言語にはかなり力を入れています。

山岸 - メインランドチャイナに関しては?

青木 - 中国本土に関しては、やるからには本腰を入れてやりたいので、社内の状況を整えながらタイミングをはかっている状態です。

山岸 - 自治体と法人企業のお客さまの割合はいかがですか?

青木 - 今は半々くらいですね。

山岸 - 自治体さんも多いのですね。

青木 - はい。最近は観光庁さんや経済産業省さんなど、省庁の仕事も増えてきました。今はまだ詳細はお話でいませんが、直でご指名をいただく機会も増えてきています。

山岸 - それはスゴイですね! 記事を書くだけではなく、コンサルテーションから入ることも多いのでしょうか。

青木 - 内容の作り込みから一緒に動いて、人を集めたり、要件定義を決めたりする段階からやらせていただいています。

山岸 - 一般企業さんについては、いわゆる「モノを売る」というのと、「日本に来てもらう」というのがあると思いますが、どちらが多いですか?

青木 - やはり海外から日本に来てもらうほうですね。

山岸 - それは旅行関係で?

青木 - そうですね。旅行で日本に来てもらって、モノも買ってもらうという。 これまでにスポーツファッションブランドの「オニツカタイガー」さん、“商品を買ってもらう”案件とは異なりますが「成田空港」さん。「星野リゾート」さんや「スノーピーク」さんは、株主であり、クライアントでもあります。

山岸 - そうそうたる面々ですね!

「日本旅行に欠かせないメディア」をめざして

山岸 - 最後に。会社の立ち上げから5年が経ちましたが、今後の展望についてお聞かせ頂けますか。

青木 - 今後はもっと“to C”を強化していく予定です。また今は娯楽要素の強いコンテンツが多いのですが、ゆくゆくは、訪日外国人観光客の皆様が安全・安心に日本国内を旅行することができる情報を発信していきたいと思っています。
今は「あるとプラスになる観光情報」を提供していますが、「ないとマイナスになる安心・安全情報」を提供することで、「なくてはならないメディアになる」ことができると思うんです。そしてこれらの情報はまた、日本人にとっても有益であり、災害後に次のアクションとして「どこの病院に行けばいいか」というような情報は必ず必要になると思っています。

山岸 - 東日本大震災の時、海外から来日して東京で働いていた私の知り合いは、「東京にいるから大丈夫」と本国の本社に伝えても、結局は引き戻されてしまいました。ほかにも本社からの命令で強制的に帰国させられてしまった人がけっこういたと聞いています。それはやっぱり、安全・安心に関する情報が少なかったからですよね。

青木 - そうなんです。ですから、そうした情報をもっと紹介していきたい。そして併せて、送客(メディアからの誘導)をしっかり可視化していきたい。弊社が作ったコンテンツを見て「実際にその場所に行った」ということを、もっと分かるようにしていきたい。そして、会社として掲げる「世界最大の訪日観光プラットフォームになる」というビジョンを実現するため、一歩ずつ形にしていきたいと思います。

山岸 - Facebookではすでに100万人ものファン数を抱える訪日外国人観光客向けメディア「MATCHA」が、これからますます便利になって「日本旅行に欠かせないサービス」となる日も近付いているようですね。青木さん、本日はありがとうございました。