GLOBAL MARKETING INSIGHT

連載対談
2017.12.4

ネットを使えば低コスト・低リスクで海外進出できるだけでなく、
いつか海外旅行本で紹介してもらったりすることも?!

対談者

FJ Solutions株式会社
代表取締役社長
井上 勉 様

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中国向けEC・訪日中国人誘致のカギは「WeChat」にあり!
その実践法を中国進出のプロに聞く

中国における2つの代表的なソーシャルメディア「Weibo」「WeChat」の公式アカウントを発行

山岸 - 今回は、中国向けのプロモーションに定評のある「FJ Solutions株式会社」の代表取締役社長、井上さんにお話を伺っていきます。まずは、御社の事業内容についてお聞かせいただけますか。

井上 - 弊社は主に、中国の代表的なソーシャルメディアとして知られる「Weibo」(微博・ウェイボー)と「WeChat」(微信・ウィーチャット)で日本企業の公式アカウントを取得し、その両メディアに広告を出稿していくというサービスを提供しています。

山岸 - 「Weibo」は“中国版Twitter”とも称されるソーシャルメディア、「WeChat」は「LINE」と似た機能を持つソーシャルメディアですよね。2つはどんな違いがあるのでしょうか。

井上 - 実名制ではない「Weibo」は、好き放題に何でも情報を発信してしまうことが多いために炎上しやすいという特徴があります。しかしその分、情報の拡散が早いんですね。
一方の「WeChat」は、友達と1対1でメッセージを送り合ったり、仲間内でグループチャットを楽しんだりと、親しい人とのコミュニケーションを楽しむソーシャルメディアです。モーメンツというタイムラインもありますが、そこに投稿する内容は基本的に友人が見るので、どちらかと言うと建前的な情報が多くなりますね。

山岸 - なるほど。現状で、それぞれユーザーはどのくらいいるんですか?

井上 - 人口約14億人の中国国内で、「Weibo」は約4億人、「WeChat」は約10億人です。

山岸 - 「WeChat」はもう中国では、高齢者や小さな子供意外ほとんど全員がやっている感じですね!

井上 - そうですね。中国では以前から、「QQ」(キューキュー)という中国語のチャットを連絡手段にしていました。そこから「WeChat」に移行してきたという経緯があり、今では日本人がメールを使うのと同じように「WeChat」でメッセージを送り合っています。ちなみに「QQ」も「WeChat」も、「Tencent」(騰訊・テンセント)というIT企業が運営しています。

山岸 - 「WeChat」なら、老若男女を問わず誰にでもアプローチできるわけですね。日本でも「LINE」は普及していますけど、まだまだ若者中心という感じですよね。

「WeChat」なら個人に直接情報配信、モバイル決済で即時フォロワー化も

山岸 - ビジネスで「WeChat」を活用するには、どんなサービスがあるんでしょうか。

井上 - 「WeChat」の企業版の公式アカウントは、個人アカウントと同じように個人とつながることができるんです。つまり企業から個人にメッセージを送ることができるということですね。例えば「Weibo」や「Twitter」、また「Facebook」では、企業がPRしたいことをタイムラインに流しても、そのタイミングで見てもらえなければどんどん埋もれてしまいますが、「WeChat」はメッセージとして配信できるので既読率が非常に高いんです。

山岸 - なるほど。

井上 - 訴求したいものをリーチしたいターゲットに対してスムーズに発信することができるというのが、「WeChat」の企業版アカウントの最大の醍醐味と言えるでしょう。

山岸 - 個人に直接情報を届けられるというのはスゴイですね!

井上 - それ以外にもいくつか機能があって、例えば近年、日本国内で「ウィーチャットペイ」というモバイル決済を導入する店舗がすごく増えています。

山岸 - 「アリペイ」と並んで市場争いをしているんですね。

井上 - はい。実は「ウィーチャットペイ」を店舗で導入すると、決済をした人をその場でフォロワーにすることができるんです。

山岸 - それはいいですね、買ったお客さんが即座にフォロワーになる!

井上 - はい。会員化することで、例えば「東京の店舗で買い物をしたフォロワーが大阪を訪れたから、心斎橋店に誘導しよう」といったことができるわけです。

山岸 - 「WeChat」でここまでできるなんて知りませんでした。ネットでもなかなか出て来ない情報だと思いますが、これは新しい機能ですか?

井上 - 中国ではすでに当たり前になっている機能ですが、日本では弊社が「WeChat」の運営会社とかけあって、1年ほど前にようやくできるようにしてもらいました。

中国でブランディングする手段として「Weibo」にたどりつく

山岸 - 御社は今、「WeChat」の日本における公式プロバイダーですよね。“公式”の契約を取るまでには、大変なご苦労があったのでしょうね。

井上 - そうですね。私自身が中国のweb事業に携わるようになったきっかけは「アリババドットコム」(インターネット上の国際B to B プラットフォームサービス)だったのですが、「アリババドットコム」がなぜあそこまで成長したかと言うと、世界の工場と言われる中国の無数の工場の電話帳リストを提供したからなんですよね。

山岸 - 「安く商品を作って自国で売りたい」と考えた世界中の企業が、「アリババドットコム」で中国の工場を探して商品を仕入れ、自国で売る……そうした流れの中で、ものすごく流行っていったんですよね。

井上 - はい。ところが経済成長とともに中国国内の人件費が高騰し、製造コストと合わなくなってくると、各国の企業の「多少価格が高くても、ブランド力があって安全な製品を作っていきたい」という思いが強まり、中国の“世界の工場”としての立場も変わらざるを得なりました。そこで「アリババドットコム」でも、中国だけでなく世界中の企業、もちろん日本企業にもどんどん参加してもらおうとグローバル戦略をとり始めたわけです。

山岸 - そうなって来ますよね。

井上 - けれど、トヨタやキヤノン、ソニーといった大手企業はすでに世界中に拠点を持っていて、インターネットを使って市場を開拓する必要がないわけです。ですから「アリババドットコム」を使うのは、言ってしまえばまだナショナルブランドになっていない企業がほとんど。そしてそれらの企業は、海外でブランディングやマーケティングをしたことがないので、どんな価格帯で・どんなデザインで売ればいいのかも分からない。そもそも貿易をしたことがない、という企業も多かったですね。
そうなるとまったく売れませんし、せっかく参加してもらってもいずれ解約してしまうだろうということで、「ブランディングやマーケティングに活用できるものはないか」と探していて見つけたのが、「Weibo」でした。

テレアポは最大の広告!

山岸 - 「Weibo」とは、どうやって話を進めたんですか?

井上 - 当時(2009年)、「Weibo」は中国で大きくなり始めた頃だったのですが、こちらは現地に人脈もなかったので、いきなり責任者にアポイントを申し入れたところ話を聞いてもらうことができました(笑)。その頃、弊社は光通信のグループだったので「大きな販路があり、広告も取って来てくれそうだ」と期待を持ってもらえたようで、日本での公式アカウントの発行から広告出稿までを、当時は独占契約という形で対応させていただくことになったのです。

山岸 - テレアポで日本国内の企業に「Weibo」の説明をしても、最初はなかなか分かってもらえなかったのでは?

井上 - はい、「Weiboなんて聞いたことないよ」というところからのスタートでしたから大変でした。でも弊社は光通信のグループだった頃からテレアポには慣れていましたから、1件1件電話して訪問して説得していくという感じでした。

山岸 - なるほど。

井上 - 持論ですが、テレアポは最大の広告だと思うんです。1日に1人が200件電話をかけるとして、10人いれば2000社に「Weibo」の存在を伝えることができますから。

山岸 - 電話で名前を知れば、その後に何かで見た時に「そう言えば聞いたことあるな」となる。それって大事なんですよね。弊社も御社を見習って、テレアポは営業ではなくてブランディングなんだという意識でやっていこうと思います(笑)。

井上 - そうやってコツコツやって行くと、例えばテレビでも中国の報道をする際に、最初は「中国版Twitterでは~」と言われていたのが、気が付けば「中国版Twitter、Weiboでは~」という言い方に変わり、最近でははっきりと「Weiboでは~」となって、「中国版Twitter」という言葉さえ言わなくなりました。

山岸 - そう言えば「WeChat」も、最近は知っている人が増えてきましたよね。「WeChat」の公式代理店になったのは、「Weibo」の後ですか?

井上 - はい。「Weibo」で800件成約した実績から、取り扱いできることになりました。

「WeChat」はメーカーが小売依存から脱却する手段のひとつ

山岸 - 「WeChat」を企業が活用する場合、やはりB to Cですか?

井上 - 基本的にB to Cですね。日本企業の中では、大手家電量販店やドラッグストア、百貨店といった小売業が割と早くから活用しています。また最近、クライアントとして増えてきているのがメーカーさんです。

山岸 - ブランドを持っている企業ですね。

井上 - はい。これまでメーカーさんは、小売業に依存して自社商品を売ってもらってきたわけですが、例えば商品の人気が下降気味になると最悪の場合は店頭に商品を並べてもらえなくなることもありました。
そこで、これは弊社の戦略でもあるのですが、実は「WeChat」内に越境ECの自社サイトを運営できるサービスも提供しておりまして。

山岸 - 「WeChat」内にECサイトを作れれば、リピートのお客さんを誘導することもできますね。小売店に依存したままだと、もちろん爆買いみたいな良い波はあると思いますが、売上が増えたり減ったり安定しません。中国の人が日本で購入する機会は増えていっていますから、「WeChat」内で中国の人たちに自社商品を知ってもらうだけでなく購入してもらえれば、自社の営業利益も増えますからうれしいですね。

井上 - はい。商品のパッケージなどに「WeChat」のQRコードを載せて会員化を促したり、中国語で使用上の注意を表示したページへ誘導したりしていけば、いずれリピートの購入分はすべてメーカーのECサイトで直接販売できるようになるわけです。
「WeChat」内のECサイトへの誘導は、中国企業なら当たり前にやっていて、日系企業でも例えば日清さんなどは、カップヌードルの蓋に「WeChat」の越境ECサイトに誘導するためのQRコードを印刷し、ネットで注文できるようにしていますよ。

山岸 - しかも「ウィーチャットペイ」で決済してもらって、フォロワーも増やすわけですね。

井上 - その通りです。

山岸 - ちなみに「WeChat」内のECサイトは、どうやって作るのでしょうか。

井上 - CMSで作る感じです。「WeChat」のAPIと連携をしており、サイトの訪問者の属性や滞在時間などの統計が取れるようになっています。

山岸 - それは面白いですね!

中国のECサイトはサポートの即レスが必須

山岸 - 中国向けのマーケティングに「WeChat」などのソーシャルメディアを活用するにあたって、特に注意しなければならないことはありますか?

井上 - 問い合わせが来たら、とにかく1分でも1秒でも早く応えてあげることですね。対応するまでの時間が1時間でも遅いくらいで、もし放置してしまえばどんどんユーザーは離れていきます。

山岸 - 中国企業って、そんなにレスポンスが早いんですか?

井上 - 早いですよ、専属のスタッフが常にパソコンの前に張り付いていますから。中国のECサイトには「交渉する」というチャットボタンがあって、商品の在庫が何個あるのか、まとめて買えるのか、まとめて買えば値引きがあるのかなど、お店で直接値段交渉をしているような感じでチャットすることができるんです。

山岸 - 新しいO to Oみたいな感じですね。

井上 - 中国ではこれが当たり前で、ECサイトをやっていくなら常にチャットでも音声でも対応できるようにしておく必要があります。

山岸 - 越境ECと言うと、とかく価格や商品数などが議論になりますが、中国向けではお客様のサポート面がかなり重要なんですね。

井上 - でもチャットですべて済むので、コールセンターを用意しなくてもいいですし、楽な面もありますよ。最近では韓国など、中国の観光客を集めたい国がたくさんありますので、問い合わせに即レスできないとすぐに他に行っちゃうんです。

山岸 - それ分かります。買いたいタイミングで問い合わせをしているので、すぐに返事が来ないと他のサイトで買おうかなと思っちゃいますよね。弊社でも新しく化粧品のECサイトを始めたのですが、サポートの対応が早いとお客さんの印象が違ってくるんですよ。
ちなみに「WeChat」内のECサイトは今、日本企業はどのくらい登録していますか?

井上 - もともと日本の企業には「WeChat」はハードルが高かったので、まだ100社くらいですね。去年(2016年)の4月に弊社が公式の代理店になるまでは、中国企業の名義を借りてアカウントを作っていましたから。

山岸 - それは、ちょっと危ないやつですね。

井上 - はい、フォロワーが増えたところで名前を変えて、他に転売したりすることもできてしまいますからね。悪徳な業者なら「フォロワーが10万人もいるんだから、年間1000万円下さい」なんて高額な請求をしてきたりすることも……。

山岸 - 今でも「うちの名義でアカウントを取りますよ」という提案をする業者さんはたくさんありますから、信頼できるかどうかよく見極めたいところですね。

「WeChat」における日本企業の勝ち組は……

山岸 - 日本企業の「WeChat」ページで、一番フォロワー数が多いのはどこなんでしょうか。

井上 - 「WeChat」は「Facebook」のようにフォロワー数が公開されていないので、正式には分からないのですが、「ビックカメラ」さんはかなり頑張っていますね。

山岸 - けっこう前から参加されていますよね。

井上 - はい。おそらく50万人くらいはフォロワーがいるのではないでしょうか。尖閣諸島の問題が起きたり、震災が起きたりした時、ほとんどの日本企業が中国向けのプロモーションから撤退してしまっても、「ビックカメラ」さんはコツコツと広告を出し続けていましたね。「マツモトキヨシ」さん、「ドン・キホーテ」さんも同様です。この3社はずっと継続されていましたから、そうした努力が実って“勝ち組”になれたのかもしれません。

山岸 - まさに継続は力なり、ですね。

井上 - 今ではドラッグストアや家電量販店、またアパレルブランドも、主要なところはほとんど「WeChat」でプロモーションをしています。していないのは「ヤマダ電機」さんくらいじゃないでしょうか。

将来的には“対グローバル”を目指したい

山岸 - 今後の御社のヴィジョンをお聞かせいただけますか。

井上 - これまで中国一本でずっとやってきまして、中国に対してのプロモーションは他社に負けない強みを持っていると思っています。そこで今後は弊社のサービスを利用されている企業さんの満足度を上げるためにも、ベトナムやミャンマー、バングラデシュといった東南アジアに向けたプロモーションも展開していきたいと思っています。実はこれも私の持論なのですが、「留学生が増えた後には必ずその国からの訪日旅行客が増える」と感じておりまして。ベトナム、ミャンマー、バングラデシュは近年、留学生が増えてきていますので、ぜひ対象国にしていきたいんです。

山岸 - 訪日旅行客が増えるのは、留学生たちが自国に日本の情報を持って帰るからでしょうか。

井上 - そうだと思います。また、現在はwebプロモーションに特化していますが、今後は現地でPRイベントを企画したりして、将来的には対中国・対グローバルの国際的な広告代理店を目指していきます。

山岸 - 良いですね! 弊社は言語は幅広くやっていますし、中国向けのプロモーションでは「バイドゥ」(百度)の公式代理店として2年連続で最優秀をいただいたりしていますので、連携してやっていきたいですね。

井上 - 検索マーケティングとソーシャルメディアはすごく相性が良いですから、ぜひ! 特に中国の若者たちは、動画サイトやソーシャルメディアで知った情報を「バイドゥ」や「T-mall」(天猫・ティーモール)、「Weibo」などで検索してから行動を起こすので、検索結果に情報が出ないのは致命的なんですよね。

山岸 - 検索とソーシャルメディアを抑えることができれば、インターネットの8~9割は抑えられますからね。

「海外進出は、このタイミングを逃すともったいない」!

山岸 - 最後に、海外進出を考えながらも思いきれずにいる人たちに向けて、最初の一歩を踏み出すきっかけになるようなコメントをお願いします。

井上 - そうですね……。皆さん、難しく考え過ぎだと思うんですよ。言葉が分からないから無理だとか、貿易をやった経験がないから難しいんじゃないかとか。でも私自身が英語も中国語もできないから言えるのですが(笑)、言葉なんて社内に話せる人がいれば大丈夫ですから。貿易もやってみれば簡単ですし、そこを難しく考える必要はまったくありません。それに、今はインターネットを活用すれば極めて低コスト・低リスクで海外進出できます。

山岸 - 翻訳ひとつとっても、5年前・10年前とは比較にならないほど低コストでできますしね。それに今は日本に来てくれている人たちも、いつまで日本を好きでいてくれるか分かりませんから。

井上 - そうなんですよ。中国国内ではタイの人気がすごく高まってきていて、今では中国人旅行者の行先としてタイが一番多いほどです。2回目、3回目の海外旅行ともなれば、ちょっと足を伸ばしてヨーロッパへ行こうとか、アメリカ本土へ行こうといったことも増えるはずですから、このタイミングを逃すともったいないですよ。

山岸 - その通りですよね。まず一歩を踏み出して海外との接点を作らないと、何も進みませんしね。

井上 - 例えば今、ハワイの旅行本は書店に行けばたくさんあるじゃないですか。ネットにも情報はたくさんある。でも中国は今海外旅行ブームとは言え、日本の観光情報はほとんど出回っていないんです。ですからこのタイミングでネット上に自社の情報を増やして有名になれば、この先10年後・20年後に中国の旅行本に載ることだって夢ではないかもしれません。その証拠に、ほんの数年前は東京から大阪に向かうゴールデンルートしかなかったけれど、今では日本人すら行かないような場所にも海外旅行者がたくさん訪れるようになってきています。

山岸 - 弊社が運営する化粧品の口コミサイトでも、アジアの人が日本の化粧品を知りたがっているのに、日本の企業が情報を出さないために需要と供給のバランスが崩れているんですよね。知りたいと思われているタイミングで情報を出してあげないと、将来的なマーケティング戦略にも響いてきてしまいます。ですからぜひ、日本の情報が求められているうちにたくさん情報を出していってほしいと思いますね。
井上さん、今日は中国向けのプロモーション、特に「WeChat」についてとても有益な情報を本当にありがとうございました!